債務整理 借金返済|全部請求として3億円の保証債務の履行するよう中小企業へ要求


第1 請求

1 原告の請求

被告らは,原告に対し,連帯して,3億円を支払え。

2 参加人の請求

被告らは,参加人に対し,連帯して,3億円を支払え。

第2 事案の概要

本件は,たくぎん抵当証券株式会社(以下「たくぎん抵当」という。)が,株式会社藤田陸運(以下「藤田陸運」という。)に対し,金銭消費貸借契約に基づき10億円を貸し付けたうえ,被告旧藤田運輸との間で,藤田陸運が金銭消費貸借取引等に基づきたくぎん抵当に対して負担する債務につき5億円を限度とする保証契約を交わしたところ,その後,上記10億円の貸金債権を譲り受けた原告が,被告旧藤田運輸に対し,上記保証契約に基づく全部請求として3億円の保証債務の履行を求めるとともに,被告新藤田運輸に対し,主位的主張として,商号を続用した営業譲受人の責任(平成17年法律第87号による改正前の商法(以下「旧商法」という。)26条1項)に基づき,また,予備的主張として,法人格否認の法理に基づき,同じく上記保証契約に基づき3億円の保証債務の履行を求めた事案である。
なお,本訴係属中に,原告から上記3億円の貸金債権を含む原告の貸金債権全部を譲り受けたと主張して,参加人が訴訟参加し,原告が訴訟脱退の申出をしたが,被告らは,原告の脱退につき承諾しなかったものである。

1 前提事実(当事者間に争いがないか,証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)

(1) 当事者等
ア原告は,貸付金債権及びその担保の取得,運用,処分等を目的とする,ケイマン諸島法に準拠して設立された会社であり,参加人は,会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律2条の特例有限会社である。
イ被告旧藤田運輸は,昭和40年2月12日に「株式会社藤田運輸」の商号で千葉県成田市ab番地cを本店所在地として設立された,一般貨物自動車運送事業等を目的とする株式会社であり,Dが代表取締役であったが,平成16年8月20日,本店所在地を千葉市d区ef丁目g番h号に移転し,同年9月1日,株主総会の決議により解散した。
ウ被告新藤田運輸は,平成13年7月3日に「成田エアポートサービス株式会社」の商号で千葉県四街道市ij番地のkを本店所在地として設立された,損害保険代理業,一般貨物自動車運送事業等を目的とする株式会社であり,Aが代表取締役であったが,平成16年5月20日,商号を「株式会社藤田運輸」に変更し,同年6月15日に被告旧藤田運輸の取締役であったBが新たに代表取締役に就任したうえ,平成17年2月25日,本店所在地を千葉市d区el丁目m番n号に移転したものである。
エ藤田陸運は,平成元年7月10日及び平成3年12月17日の各当時,被告旧藤田運輸の現在の本店所在地と同一の住所地に本店を置き,Cが代表取締役を務めていた。
オ株式会社藤田組(以下「藤田組」という。)は,平成元年7月10日当時,被告旧藤田運輸の現在の本店所在地と同一の住所地に本店を置き,不動産等の賃貸業等を営んでいたもので,Dが代表取締役を務めていた。
(2) 本件金銭消費貸借契約の締結
たくぎん抵当は,平成元年7月10日,藤田陸運との間で,「金銭消費貸借抵当権設定契約書」(以下「本件金銭消費貸借契約書」という。)を交わし,概ね以下の約定で10億円を貸し付けた(以下「本件金銭消費貸借契約」といい,これに基づく債権債務を「本件貸金債権」,「本件貸金債務」という。)。
最終弁済期平成4年7月8日(元金一括)
利息利率年6.4パーセント(但し変動金利),毎年1月,4月,7月及び10月の各月8日に3か月分の利息を前払いにより支払う
遅延損害金年18パーセント(年365日の日割計算)
期限の利益藤田陸運が債務の一部でも履行を遅滞したときは,たくぎの喪失ん抵当の請求によって,本件貸金債務についての期限の利益を失い,直ちに同債務を弁済するこれとともに,藤田組及びCは,たくぎん抵当との間で,本件金銭消費貸借契約書により,藤田陸運が本件金銭消費貸借契約に基づいて負担する一切の債務について,藤田陸運と連帯して保証する保証契約を締結し,更に,藤田組は,たくぎん抵当との間で,藤田組が所有する不動産(土地3筆,事務所等3棟)について抵当権を設定する抵当権設定契約を締結し,たくぎん抵当のために抵当権設定登記がなされた。
(3) 本件保証契約の締結
たくぎん抵当は,平成3年12月17日,藤田陸運,C,被告旧藤田運輸及びEとの間で「根抵当権設定契約証書」(以下「本件契約書」という。)を交わし,藤田陸運を債務者とするa金銭消費貸借取引による債権及びbたくぎん抵当が取得する手形上・小切手上の債権を担保するため,藤田陸運,被告旧藤田運輸及びEについて,同人らが各所有する合計36筆の土地(藤田陸運につき6筆,被告旧藤田運輸につき29筆,Eにつき1筆)を共同担保として,極度額を5億円とする根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)を設定する根抵当権設定契約を締結し(以下「本件根抵当権設定契約」という。),上記abの取引によって藤田陸運が負担する一切の債務について,C,被告旧藤田運輸及びEが,藤田陸運と連帯して,5億円を限度として保証する保証契約を締結した(以下「本件保証契約」といい,これに基づく債権債務を「本件保証債権」,「本件保証債務」という。)。
(4) 本件不動産競売の申立て及び同開始決定
たくぎん抵当は,藤田陸運が本件金銭消費貸借契約に基づく利息の支払を怠ったことから,平成4年3月6日到達の書面により藤田陸運に対して本件貸金債務の履行を請求し,もって本件貸金債務について期限の利益を喪失させた。
そこで,たくぎん抵当は,本件根抵当権に基づき,千葉地方裁判所佐倉支部に対し,前記合計36筆の土地について,担保権の実行としての不動産競売(以下「本件不動産競売」という。)を申し立て,平成5年11月2日,不動産競売開始決定を得た(同裁判所佐倉支部平成5年(ケ)第269号,後の千葉地方裁判所平成12年(ケ)第55269号)。同決定正本は,同年12月15日,藤田陸運に送達された。
(5) 本件貸金債権の譲渡及び同通知
アたくぎん抵当は,平成9年11月19日午後6時45分,破産宣告を受けて破産管財人が選任されたところ,同管財人は,平成13年10月25日,ニッポン・キャピタル・パートナーズ・スリー・エルエルシー(以下「スリーエルエルシー」という。)に対し,本件貸金債権を譲渡し(以下「本件第1譲渡」という。),平成14年3月15日,千葉地方裁判所に対し,上記不動産競売事件について申立人の地位をたくぎん抵当の破産管財人からスリーエルエルシーが承継した旨の不動産競売申立人変更届を提出するとともに,藤田陸運に対し,同年9月5日,「債権譲渡通知書」を発送した。
イスリーエルエルシーは,平成14年4月10日,原告に対し,本件貸金債権を譲渡するとともに(以下「本件第2譲渡」という。),藤田陸運に対し,同年9月5日,「通知書」によりその旨を通知し,翌6日,同通知は藤田陸運に到達した。
ウ原告は,平成14年4月19日,コンテナー・フレイト・ステーション成田株式会社(以下「コンテナー」という。)に対し,本件貸金債権の元本のうち4億円並びにこれに対する利息債権及び遅延損害金債権を譲渡した(以下「本件第3譲渡」という。)。
エコンテナーは,平成15年12月26日,原告に対し,本件第3譲渡により譲り受けた上記本件貸金債権元本4億円のうち2億円並びにこれに対する利息債権及び遅延損害金債権を譲渡するとともに(以下「本件第4譲渡」という。),藤田陸運に対し,同日付け「通知書」によりその旨を通知し,平成16年1月8日,同通知は藤田陸運に到達した。
なお,コンテナーは,被告旧藤田運輸に対しても,平成15年12月26日付け「通知書」により本件第4譲渡を通知し,平成16年1月9日,同通知は被告旧藤田運輸に到達した。
(6) 本件不動産競売に基づく配当
コンテナーは,平成14年7月2日,本件不動産競売手続において,1億7323万3176円の配当を受けた。
(7) 本件営業譲渡
被告旧藤田運輸は,平成16年6月25日,被告新藤田運輸との間で,「一般貨物自動車運送事業の譲渡し及び譲受け契約書」を交わして,車輌,機械器具,什器備品,在庫品を含む一般貨物自動車運送事業に関連する一切の資産及び権利義務を譲渡価格1551万円で譲渡する旨の契約(以下「本件営業譲渡」という。)を締結し,これにつき,同年8月12日,関東運輸局長の認可を得た。
(8) 被告新藤田運輸についての旧商法26条2項の免責登記
被告新藤田運輸について,平成16年11月8日,「商号の譲渡人の債務に関する免責」について,「当会社は平成16年5月20日商号の譲渡を受けたが,譲渡人である株式会社藤田運輸の債務について責に任じない」旨の登記がなされた(以下「本件免責登記」という。)。
(9) 本訴の提起
原告は,平成17年1月26日,被告らに対し,本訴を提起した。
(10) その後の本件貸金債権の譲渡及び同通知ア原告は,平成19年8月22日,合同会社ジェイ・スリー・インベストメンツ(以下「ジェイ・スリー・インベストメンツ」という。)に対し,本件貸金債権元金8億円並びにこれに対する利息債権及び遅延損害金債権を譲渡するとともに(以下「本件第5譲渡」という。),藤田陸運に対し,同年10月17日付け「債権譲渡通知書」によりその旨を通知し,同月20日,同通知は藤田陸運に到達した。
イ更に,ジェイ・スリー・インベストメンツは,平成19年10月31日,参加人に対し,本件第5譲渡により取得した債権を譲渡するとともに(以下「本件第6譲渡」という。),藤田陸運に対し,同日付け「債権譲渡通知書」によりその旨を通知し,同年11月13日,同通知は藤田陸運に到達した。
(11) 被告らによる商事消滅時効の援用
被告らは,本件貸金債務につき,原告に対し,平成19年3月15日の本件第5回弁論準備手続期日において,平成13年10月25日を起算日とする商事消滅時効を援用する旨,また,原告及び参加人に対し,平成20年5月13日の本件第12回弁論準備手続期日において,平成14年7月2日を起算日とする商事消滅時効を援用する旨の各意思表示をした。

2 争点

(1) 債権譲渡の対抗要件
(2) 本件保証債務の随伴性の有無
(3) 被告新藤田運輸は旧商法26条1項により本件保証債務を負うか。
(4) 被告新藤田運輸は法人格否認の法理により本件保証債務を負うか。
(5) 商事消滅時効の成否
(6) 本訴の請求が信義則違反又は権利の濫用にあたるか。

3 争点についての当事者の主張

(1) 争点(1)(債権譲渡の対抗要件)について
【原告及び参加人の主張】
ア民法467条による通知
たくぎん抵当破産管財人は,平成14年9月5日,藤田陸運に対し,本件第1譲渡を内容証明郵便により通知し,スリーエルエルシーも,同日,藤田陸運に対し,本件第2譲渡を通知し,いずれの通知も藤田陸運に到達している。本件第1譲渡の通知については配達証明書が見当たらないものの,いずれの通知書についても株式会社ロンバート債権回収(以下「ロンバート」という。)が出状手続を代行したものであって,本件第2譲渡の通知が同月6日に藤田陸運に到達していることからすれば,本件第1譲渡の通知も,同日ころに藤田陸運に到達したはずである。
そして,原告は,藤田陸運に対し,本件第3譲渡を通知し,その通知も同月下旬ころに到達し,平成20年5月2日にも再度到達しているうえ,コンテナーも,藤田陸運に対し,本件第4譲渡を通知し,同通知も平成16年1月8日に到達している以上,原告は,本件各債権譲渡について対抗要件を具備しているといえるのであり,更に,本件第5譲渡及び本件第6譲渡の通知も,いずれも藤田陸運に到達している以上,参加人もまた対抗要件を具備しているといえる。
これらは,藤田陸運及び被告旧藤田運輸が,本件不動産競売手続において,債権者の地位の承継につき一度も執行異議を申し立てなかったことや,被告らが,本訴において突然対抗要件の抗弁を主張し始めたのが,第4回弁論準備手続において陳述した平成19年1月26日付け準備書面からにすぎないことからも明らかというべきである。
イ民事執行規則171条による通知
民法467条(指名債権譲渡の対抗要件)において,債権の譲受人による通知が債権譲渡の対抗要件として認められない趣旨が虚偽通知がなされ得るからであることからすれば,虚偽通知の可能性がなく,かつ利害関係のない第三者からの通知により,債務者が債権譲渡の事実を知った場合には,対抗要件としての通知がなされたとみなすのが相当であるところ,本件においては,本件第1譲渡ないし本件第3譲渡については,各譲渡人が千葉地方裁判所へ競売申立人ないし債権者の地位承継の申立書を提出し,同裁判所書記官が,その都度,債権譲渡に基づく申立債権者の変更があっ
たこと及び債権譲渡に伴う移転登記が経由されたことを確認したうえ,民事執行規則171条(担保権の実行が開始された後の差押債権者の承継の通知)に基づき,債務者である藤田陸運及び担保物件の所有者である被告旧藤田運輸に対して,当該債権が承継された旨通知しており,これにより,債務者である藤田陸運は,債権譲渡の事実を認識したと解されるから,原告及び参加人は,債権譲渡の対抗要件を具備したというべきである。
被告らは,上記裁判所書記官による通知が藤田陸運に到達していない旨主張するが,仮に到達していないとしても,裁判所は従前の送達場所に送達しており,送達場所の変更届がなされていない以上有効な送達とみなされるのであり(民事執行法16条,民事訴訟法104条2項,3項),しかも,本件不動産競売手続は既に終了している以上,被告らにおいて,もはや上記送達の瑕疵を争うことは許されないというべきである。
ウ民法467条による承諾
更に,藤田陸運及び被告旧藤田運輸は,同裁判所書記官からの競売申立人ないし債権者の地位承継の通知を受けた後,執行異議を申し立てることにより当該債権譲渡を争うことができたにもかかわらず,一度たりとも執行異議の申立てをしないまま,本件不動産競売手続が配当実施により終了したことや,被告らが対抗要件の抗弁の主張をしたことが本訴の第4回弁論準備手続に至ってにすぎないことなどからすれば,藤田陸運及び被告旧藤田運輸は,これまで各債権譲渡を承諾していたものというべきであるから,原告及び参加人は,債権譲渡の対抗要件を具備しているというべきである。
エ信義則違反又は権利の濫用
上記ウのとおり,被告旧藤田運輸が各債権譲渡につき執行異議の申立てをしなかったにもかかわらず,本訴において対抗要件の抗弁を主張するのは,配当実施により終了した本件不動産競売手続の効果を覆すことにつながるものである以上,民事執行手続の安定化のため,手続内で不服を主張することができたのに主張しなかった事由は,手続終了後に主張することができない旨の原則等を規定した民事執行法の趣旨からしても,信義則違反又は権利の濫用であり,許されないというべきである。
【被告らの主張】
ア民法467条による通知の欠缺
原告及び参加人が本件保証債権を請求するには,本件第1譲渡ないし本件第6譲渡の各債権譲渡につき,対抗要件として各譲渡人から主たる債務者である藤田陸運に債権譲渡の通知がなされていなければならない。
しかしながら,そもそも,既に本件第1譲渡について,その「債権譲渡通知書」が主債務者である藤田陸運に到達したことを示す証拠は何らないうえ,各債権譲渡の通知についてみても,それらの出状手続を代行したというロンバートの作成経緯等が何ら判明しないうえ,本件第1譲渡の通知書は本件第2譲渡後であり本件不動産競売手続すら終了した後に至って通知されていること,たくぎん抵当の破産管財人事務所は札幌であるにもかかわらず東京中央郵便局から発送されていること,本件第2譲渡の通知書は配達証明書の宛先がスリーエルエルシーの代理人弁護士の事務所ではなく原告の日本における代表者になっていることなど,通知に関して不自然な点ばかり存することに鑑みれば,真実に各債権譲渡がなされ,それに伴ってなされた債権譲渡の通知であると到底信用することはできないというべきである。
イ民事執行規則171条による通知に対する反論
原告及び参加人は,民事執行規則171条に基づく裁判所書記官による通知も債権譲渡の対抗要件たり得る旨主張するが,債権譲渡の通知は対抗要件である以上,権利状態を安定させるため,譲渡人から債務者へ債権譲渡の事実を通知するという民法467条に従って画一的になされるべきというところ,民事執行規則171条に基づく通知は,その主体が裁判所書記官であって譲渡人の代理人として行うものではないし,通知内容も,債権譲渡があったという事実とは異なり,不動産競売手続の申立人ないし債権者の地位の承継があった事実を証する文書が裁判所に提出されたという事実にすぎないのであるから,同条に基づく通知をもって民法467条の通知の代わりになるとは到底いえない。
これは,たとえ通知手続に裁判所という信頼できる第三者が関与していたとしても同様であり,このことは,債権譲渡の通知を欠いた訴え提起や抵当権の実行の申立てが不適法とされていることからも明らかである。
ちなみに,本件においては,裁判所書記官による通知すら,藤田陸運に対しても被告旧藤田運輸に対しても到達していないのである以上,原告及び参加人の主張はその前提を欠くというべきである。この点,原告は,藤田陸運が送達場所の変更届をしなかった以上,従前の送達場所に送達すれば有効な送達とみなされ,送達の瑕疵を後に争うことはできない旨主張するが,裁判所書記官が従前の送達場所宛に通知を発送しても,それが藤田陸運に到達していない限り,実体法上,債権譲渡の対抗要件としての通知の効果は生じないというべきであり(最高裁判所平成7年9月5日第三小法廷判決・民集49巻8号2784頁参照),本件第2譲渡に関する「債権者地位承継申立書」は,原告からコンテナーへ承継されたなどと誤って記載されているものであり,これに基づき裁判所書記官による通知がなされたのであれば,そもそも民事執行規則171条の通知すらなされていないというべきである。
ウ民法467条による承諾に対する反論
原告及び参加人は,藤田陸運が各債権譲渡を承諾した旨を主張するが,不動産競売事件の終結により債務者らは当該執行手続内において異議を述べる機会を失うものの,そもそも異議の申立ては権利であって義務ではない以上,異議を申し立てなかったことが実体法上の権利に何らかの影響を及ぼすことはあり得ないから,藤田陸運や被告旧藤田運輸が債権譲渡の承諾をしたことにはならない。また,民事執行法184条は,担保不動産競売における代金の納付による買受人の不動産の取得は,担保権の不存在又は消滅により妨げられない旨規定しているところ,これは,競売手続外から手続に参加した競落人を保護するためにすぎず,それゆえ競売申立人が競落した場合には同法の適用がないとされていることに鑑みれば,まさに債権者及び保証人間の争訟である本訴において,実体上の権利関係を争うことは何ら問題はないというべきである。
エ信義則違反又は権利の濫用に対する反論
上記ウのとおり,不動産競売手続において異議の申立てをしなかったとしても,同手続終了後に訴訟において対抗要件の抗弁を主張することは何ら問題はないのであるから,被告らによる対抗要件の抗弁の主張が信義則違反又は権利の濫用にあたるはずがない。
(2) 争点(2)(本件保証債務の随伴性の有無)について
【原告及び参加人の主張】
原告は,本件第1譲渡,本件第2譲渡及び本件第3譲渡により,本件貸金債権元金のうち6億円及びこれに附帯する一切の権利を取得するとともに,以下の理由により,本件保証債権のうち3億円を限度とする保証債権も取得したというべきであり,参加人は,本件第5譲渡及び本件第6譲渡によってこれらを取得したというべきである。
ア本件保証契約の性質(根保証契約か否か)について
本件保証契約の被担保債権は本件貸金債権のみであること,本件保証契約は保証人に法人が存することに鑑みれば民法465条の2以下の規定(貸金等根保証契約(平成16年法律第147号による改正民法))は適用されないこと,本件契約書第13条3項等は「保証人が保証債務を履行した場合,代位によって貴社から取得した債権は,債務者と貴社との取引継続中は,貴社の同意がなければこれを行使しません。」と規定していることからすれば,本件保証契約の法的性質は根保証契約ではないから,その債権譲渡の効果については,通常の保証契約の解釈が妥当し,本件保証債務も主債務に随伴して債権の譲受人に移転するというべきである。
イ本件保証契約の性質が根保証契約である場合,本件保証契約が担保する元本は債権譲渡前に確定しているかについて
仮に,本件保証契約の法的性質が根保証契約であるとしても,本件保証契約及び本件根抵当権設定契約の締結には同一の本件契約書が用いられており,被担保債権も同一であることからすれば,契約当事者間において根保証契約につき根抵当権の元本確定事由とは異なる確定事由を設ける旨の特約などない限り,両者の元本確定事由も同一と解すべきところ,本件保証契約については固有の元本確定事由が定められていない以上,本件根抵当権と同一と解すべきであり,そうだとすれば,たくぎん抵当が平成5年11月2日に本件不動産競売を申し立てたことにより本件根抵当権が担保する元本が確定(民法398条の20第1項)したことに伴い,遅くとも同日時点において,本件保証契約における主たる債務の元本も確定したと解されるから,本件保証債務は,本件第1譲渡時において既に随伴性を有していたというべきである。
ウ本件保証契約が担保する元本が債権譲渡前に確定していない場合,本件保証債務は随伴性を有するかについて
仮に,本件保証契約における被担保債権の元本が債権譲渡前に確定していないとしても,そもそも根保証には根抵当権と異なり民法上随伴性を否定する規定はないこと,本件契約書第13条3項等は,「保証人が保証債務を履行した場合,代位によって貴社から取得した債権は,債務者と貴社との取引継続中は,貴社の同意がなければこれを行使しません。」と定め,元本確定前であっても他の保証人や根抵当権設定者に対する権利が代位移転することを容認していること,本件契約書第1条には,「別に差し入れた金銭消費貸借契約書」(本件金銭消費貸借契約書)の各条項を承認する旨の規定があるところ,本件金銭消費貸借契約書第24条1項には,たくぎん抵当が本件貸金債権及び担保権を他社に譲渡することを承諾する旨規定されており,本件金銭消費貸借契約締結後に追加された根抵当権設定者や保証人も,たくぎん抵当による本件貸金債権及びその担保権の譲渡を承諾していると解すべきであることからすれば,本件保証債務は随伴性を有し,各債権譲渡により原告及び参加人に本件保証債権が移転しているというべきである。
【被告らの主張】
原告及び参加人が本件貸金債権について主張する各債権譲渡の事実は不知であり,原告及び参加人に本件保証債権が帰属したことは争う。
ア本件保証契約の性質(根保証契約か否か)
本件保証契約は,本件契約書において「保証人は,債務者が第1条に規定する取引によって貴社に対し負担するいっさいの債務について金500000000円也を限度として,本人と連帯して保証債務を負い,…」(第13条)と規定されていることからも明らかなとおり根保証契約であって通常の保証契約ではない。
原告は,本件保証債権の被担保債権が本件貸金債権のみであったことを理由に通常の保証契約の解釈が妥当する旨主張するが,仮に,結果として被担保債権が本件貸金債権のみであったとしても,根保証契約であることに変わりはない以上,根保証契約として解釈すべきであり,それゆえ当然には随伴性を有していないというべきである。
イ本件保証契約の性質が根保証契約である場合,本件保証契約が担保する元本は債権譲渡前に確定しているかについて
原告及び参加人は,本件根抵当権設定契約と本件保証契約が同一の本件契約書により交わされていること等を理由に,特約なき限り,両者の元本確定事由は同一であると解すべきであり,本件不動産競売の申立てにより本件保証契約が担保する元本も確定している旨主張する。
しかし,本件契約書においては本件保証契約の元本に関する確定事由の定めはないのであって,たとえ本件根抵当権設定契約と本件保証契約が同一の本件契約書により交わされていたからといって,両契約は明らかに別個の契約である以上,一方を他方が準用するといった規定のない限り,本件根抵当権に関する法定の元本確定事由が本件保証契約の元本確定事由にもなると解することはできないというべきである。
また,本件保証契約に直接適用されるものではないが,貸金等根保証契約の元本確定事由に関し,民法465条の4(平成16年改正民法)は,債権者が主債務者又は保証人の財産について強制執行や担保権実行を申し立てた場合等を元本確定事由と規定しているが,同法附則4条5項は,改正法施行前に同法465条の4各号に掲げる場合に該当する事由が生じた契約であってその主たる借金返済のための債務整理の元本が確定していないものについては,施行日にその事由が生じたものとみなして同条を適用するものと規定されていることからすれば,改正法施行前においては,貸金等根保証契約について,債権者が主債務者又は保証人の財産について強制執行や担保権実行を申し立てた場合であっても,当然に同契約の主債務の元本が確定するわけではないことを意味していることが明らかなことに鑑みれば,貸金等根保証契約にも該当しない根保証契約についてはなおさらであるというべきである。
したがって,本件不動産競売の申立てによっても,本件保証契約の主債務の元本は確定していないというべきである。
ウ本件保証契約が担保する元本が債権譲渡前に確定していない場合,本件保証債務は随伴性を有するかについて
根保証と類似の制度である根抵当権は,元本確定前においては被担保債権と根抵当権との関連性がないこと及び随伴性を認めると法律関係が複雑になりすぎることを理由に,元本確定前においては随伴性が否定されているところ,根保証においても,仮に根保証債務に随伴性があるとすると,債権譲渡によって,根保証限度枠が移転するのか,根保証限度枠は被担保債権の額に応じて按分されるのか等判然とせず,根保証債権者,特定の債権を譲り受けそれに随伴した根保証債権を取得した者及び根保証人の法律関係が複雑になるのであって,根保証債務にも上記根抵当権と同様の理由が妥当するといえるから,根保証債務にも随伴性はないというべきである。
(3) 争点(3)(被告新藤田運輸は旧商法26条1項により本件保証債務を負うか。)について
【原告及び参加人の主張】
ア商号の続用にあたること
(ア) 被告新藤田運輸は,本件営業譲渡以前に「成田エアポートサービス株式会社」から「株式会社藤田運輸」の商号に変更しているが,この商号変更は,被告旧藤田運輸の労働者らが被告らに対して労働者の地位確認等を求めた地位保全等仮処分命令申立事件(千葉地方裁判所平成16年(ヨ)第301号。以下「本件仮処分事件」という。)において,被告旧藤田運輸も平成16年2月ころから営業譲渡の話が既に出ていたことを認めていることや商号変更が現になされた時期等に鑑みれば,本件営業譲渡に備えて当初より企図されていたものであることが明らかであるうえ,実際の営業活動も,関東運輸局長による本件営業譲渡の認可がなされた平成16年8月12日以降に行われているものであるから,商号の続用があったものと同視してよく,「商号を続用する場合」(旧商法26条1項)にあたるというべきであり,これは,被告新藤田運輸自身が,わざわざ同条2項による免責登記をしていることからも明らかである。
(イ) 被告らは,旧商法26条1項の趣旨に鑑みれば,原告は同条による保護を受けることができない旨を主張するが,原告は,被告新藤田運輸が被告旧藤田運輸から営業譲渡を受け,商号を続用していることから,被告新藤田運輸による債務引受があったものと信頼したのであって,まさに同条により保護されるべき債権者である。
イ本件免責登記が遅滞なくなされていないこと
旧商法26条2項の営業譲渡後「遅滞なく」の意義は,遅れて滞ることなくという意味からすれば,営業譲渡後1,2日以内をいうものと解すべきであり,遅くとも,旧商法上,株式会社の登記の期間に関しては,概ね本店所在地においては2週間以内と規定されている(旧商法188条,65ないし67条,369条,374条の8,414条,416条,96条,430条1項,123条1項,134条等)ことに鑑みれば,本店のみ所在する被告新藤田運輸については,2週間以内をいうものと解すべきであるところ,本件では,本件営業譲渡の認可日の翌日である平成16年8月13日を起算日とすべきであるから,同月16日,もしくは遅くとも同月26日までには免責登記をすべきであるにもかかわらず,本件営業譲渡から約3か月間も経過してから本件免責登記がなされたのであるから,旧商法26条2項による免責の効果は生じないというべきである。
また「遅滞なく」という, 要件が,仮に「直ちに」や「速やかに」ほどの時間的な即時性を求めるものではないとしても,正当な理由がなく遅滞した場合には「遅滞なく」の要件を満たさないというべきであるところ,前記のとおり,被告新藤田運輸による商号変更が本件営業譲渡に備えたものであったことや,被告旧藤田運輸も平成16年6月21日には既に組合三役に対しても同年8月末をもって会社を閉鎖する予定である旨を告知していたことなど,本件営業譲渡が関東運輸局長による認可以前からの既定方針であったことからすれば,被告新藤田運輸において,上記認可後,直ちに免責の登記をすることが可能であったというべきであるにもかかわらず,これを放置し,被告旧藤田運輸の労働者らから本件仮処分事件を申し立てられたことや,原告からも同年7月12日に被告旧藤田運輸に対して本件保証債務の履行を催告されたことから,専らこれらを回避するために免責の登記をしたにすぎないのであるから,本件免責登記が遅れたことに正当な理由はない。
実質的にみても,被告新藤田運輸の商号変更及び本件営業譲渡の当時,被告新藤田運輸の事実上の営業所は被告旧藤田運輸名義の建物に所在していたうえ,平成16年10月1日に被告旧藤田運輸の本店所在地の変更登記がなされるまで被告らは同一建物内に所在し,対外的には同一会社と評価される状況にあったといえるのであるから,かかる状況を継続させていた後に免責の登記をしても,「遅滞なく」の要件を満たさないというべきである。
ウ信義則違反又は権利の濫用
仮に,本件免責登記が遅滞なくなされたものであるとしても,被告旧藤田運輸は,本件保証債務を含む約8億円の債務を負っていたところ,原告から本件保証債務の履行を催告されると,資産の差押えなど防ぐべく,一切の資産を被告新藤田運輸に移転するなどして隠匿したものであって,これは計画的な債務逃れであり,執行を免脱する意図が明白であるから,被告らによる旧商法26条2項による免責の主張は,信義則違反又は権利の濫用にあたり,許されないというべきである。
【被告らの主張】
ア商号の続用にあたらないこと
(ア) 被告新藤田運輸は,本件営業譲渡前に,「成田エアポートサービス株式会社」から「株式会社藤田運輸」に商号を変更し使用していたものであって,本件営業譲渡に伴って商号を続用したものではないし,千葉県四街道市に本店を置く会社であって,千葉市d区に本店を置く被告旧藤田運輸とは別法人であり,同一商号を使用していても,債権者が営業主体を誤認混同することはあり得ないから,「商号を続用する場合」にあたらない。
被告新藤田運輸が本件免責登記をしたのは,被告旧藤田運輸の債務について責任を追及されることがないよう,念のためにしたのにすぎないのであって,商号を続用していたからではない。
(イ) そもそも,旧商法26条1項の趣旨は,営業譲受人が営業譲渡人の商号を続用している場合には,営業譲渡人の営業上の債権者は企業主の交替があったことが分からず,その営業が継続している以上,自己の債権の取立につき不安を感じず,その保全手続をとらないことが一般的であるにもかかわらず,営業譲渡人は必ずしも営業譲渡の対価を保有しているとは限らないため,かかる場合に一般原則により譲受人が債務を負担しないとすると,商号の続用によって作出された営業の継続という外観に対する債権者の信頼を裏切り,債権保全の機会を奪うことになることから,これら債権者を保護するために,営業譲受人の責任を定めたものであるところ,かかる趣旨からすれば,債権者が,営業譲渡以前から自己の債権を保全する必要があると感じ,その保全及び回収手続をとっていた場合には,債権者は債権保全の機会を逸したとはいえず,同条が予定する債権者保護を図る必要がないのであるから,同条の適用を受けないと解すべきである。
そして,本件では,原告は,そもそも不良債権の回収を業とするサービサーであり,本件不動産競売が申し立てられていることも熟知しながら本件貸金債権を譲り受けたうえ,上記競売手続においても債権者の地位を承継するなど,自己の債権を最大限に保全して回収を図っていたものであり,営業譲渡人が本件営業を継続しているかのような外観を信頼して取引を継続したり,債権の保全手続をとっていなかったような一般債権者とは到底いえないから,原告が自己の債権保全の機会を失ったとはいえず,旧商法26条1項の適用はないというべきである。
イ本件免責登記が遅滞なくなされたこと
上記旧商法26条1項の趣旨からすれば,本件免責登記が同条2項にいう「遅滞なく」なされたといえるか否かは,債権者が債権保全の機会を逸しない時機に営業譲渡と営業譲受人の免責の事実を知ることができたか否かによって決すべきである。
本件では,本件営業譲渡は平成16年8月12日に認可されているが,それが被告新藤田運輸に示されたのは同月24日であり,その後に同年9月1日に至って漸く被告新藤田運輸は営業を開始したのであるから,本件免責登記が「遅滞なく」なされたか否かは同年9月1日を基準とすべきであり,また,本件免責登記は同年11月8日付けでなされているが,これは登記官の知識欠如により手続が遅滞したためであり,被告新藤田運輸による登記の申請は同年10月15日になされていたのであるから,本件免責登記は同年10月15日付けでなされたものと解すべきところ,これらによれば,被告新藤田運輸は,営業開始から6週間余りで本件免責登記申請を行っていたものであるが,この間,被告旧藤田運輸においては,その資産状況に大きな変化はなかったのであり,他方,原告においては,上記のとおり,既に自己の債権保全に傾注していたのであるから,原告は何ら債権保全の機会を逸していなかったといえる。
したがって,本件免責登記は,「遅滞なく」なされたものというべきであり,被告新藤田運輸は,旧商法26条2項により,責任を負わないというべきである。
ウ信義則違反又は権利の濫用に対する反論
本件営業譲渡は,債務逃れや執行を免脱する意図でなされたものではなく,営業の存続及び従業員の生活を保護するという正当な目的でなされたものである。
他方,原告が請求する5億円を限度額とする本件保証債権は,同額を極度額とする本件根抵当権設定契約に付随するにすぎないものであり,その経済的役割としては本件根抵当権を保全するために尽きるものというべきところ,本件不動産競売により被告旧藤田運輸が所有する不動産から約1億7000万円が回収された以上,本件保証債権はその経済的役割を終えたものといえる。
以上のような事情に鑑みれば,少なくとも原告のような立場にある債権者に対する関係では,旧商法26条2項の主張が信義則違反又は権利の濫用にあたることはないというべきである。
(4) 争点(4 (被告新藤田) 運輸は法人格否認の法理により本件保証債務を負うか。)について
【原告及び参加人の主張】
被告旧藤田運輸及び同新藤田運輸の間に認められる下記の支配性や,本件営業譲渡について真に存する下記の目的に照らせば,本件営業譲渡は,被告旧藤田運輸の債務を免脱し,その財産に対する強制執行を回避するためになされた会社制度の濫用であることが明らかであるから,被告新藤田運輸は,被告旧藤田運輸の債権者である原告及び参加人に対し,信義則上,被告旧藤田運輸と別個の法人格であることを主張できないというべきであり(法人格否認の法理),それゆえ,被告旧藤田運輸が負う本件保証債務につき,被告新藤田運輸も連帯して責任を負うというべきである。
ア支配性
以下の事情を考慮すれば,被告らは実質的に同一の法人であり,被告旧藤田運輸は,被告新藤田運輸に対して支配的地位にあることが明らかというべきである。
(ア) 資本関係
Dは,被告旧藤田運輸の元代表取締役であり,現在はその清算人を務め,その株式の大半を保有している者であるが,同人は,被告旧藤田運輸の千葉営業所が平成11年になって独立した株式会社アルコン(以下「アルコン」という。),藤田組,藤田空港観光株式会社(以下「藤田空港観光」という。)及び株式会社バイエルン自動車(以下「バイエルン」という。)の代表取締役も兼ねていること,バイエルンの取締役であるF及びGはDの妻及びその父であること,バイエルンの監査役であるHは,被告旧藤田運輸の成田空港内の荷役業務等を分社化した株式会社フジタエアポートサービス(以下「フジタエアポートサービス」という。)の代表取締役を務めていたこと,バイエルンの監査役であるIはアルコンの元代表取締役であること,バイエルンのホームページには,関連会社として,藤田組,藤田運輸,フジタエアポートサービス,株式会社藤田興運(以下「藤田興運」という。),藤田空港観光及びアルコンがあげられていること,藤田興運の役員にDの親族がいることなどからすれば,Dは,藤田グループと呼ぶべき企業群を形成していたといえ,しかも,被告新藤田運輸及び藤田空港観光の事務所が被告旧藤田運輸の本店所在地の建物内にあったこと,被告旧藤田運輸が,平成12年から平成14年にかけて,被告旧藤田運輸が所有する土地について,フジタエアポートサービスのために根抵当権設定登記をし,藤田組,アルコン及び被告新藤田運輸に対して売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記をしたことなどからすれば,被告旧藤田運輸は,藤田グループの中核的存在であったというべきである。
そして,上記のとおり,被告旧藤田運輸の株式の大半をDが所有している一方,被告新藤田運輸は,設立時,形式的にはAが出資したものの,AはDが代表取締役を務めるバイエルンの総務経理担当者にすぎないことなどからすれば,被告旧藤田運輸の実質的な出資者は,Dないし藤田グループの企業であるというべきであり,それゆえ,被告らは,いずれも,実質的にはDが所有し支配する会社であることが明らかである。
(イ) 商号の同一性
被告らの商号は,いずれも「株式会社藤田運輸」で全く同一であり,しかも,被告新藤田運輸が商号を変更した時期は,被告旧藤田運輸が会社を閉鎖することを発表するわずか約1か月前である。
(ウ) 役員及び幹部従業員の構成
被告新藤田運輸の商号変更前の取締役は,A,J,K及びLであったが,J及びKは,それぞれ被告旧藤田運輸の総務部長及び統括部長であり,同社の従業員として職務専念義務があるにもかかわらず被告新藤田運輸の取締役を兼務していたのは,被告らが実質的に同一の法人であるからである。
上記取締役らは,被告新藤田運輸が商号を変更した後,被告旧藤田運輸が会社を閉鎖することを発表する直前の平成16年6月14日までに全員辞任してはいるが,その後,被告新藤田運輸の代表取締役となったBは,やはり被告旧藤田運輸の専務取締役として実質代表取締役に次ぐ地位にあった者であり,また,取締役となったM及びNは,それぞれ被告旧藤田運輸の社長秘書室長及び同営業部長兼空港部長であり,総務部長兼総務経理グループリーダーになったOは,被告旧藤田運輸の総務部経理グループリーダーであり,配送部長兼営業推進部事業開発グループリーダーになったPは,被告旧藤田運輸の配送部長であり,配送部配車グループリーダー兼配送グループリーダーになったQは,被告旧藤田運輸の配送部配車チーム係長であり,空港部成田グループリーダーになったRは,被告旧藤田運輸の同職にあった者であるなど,被告旧藤田運輸の役員及び幹部従業員がそのまま被告新藤田運輸に移行していることからすれば,被告らの役員及び幹部従業員が混同していることが明らかである。
(エ) 被告新藤田運輸の業務活動
被告新藤田運輸の設立時の本店所在地である千葉県四街道市ij番地のkは,Aの自宅であり同社の事務所はなく,移転後の本店所在地である千葉市d区el丁目m番n号も同社の事業所又は役員が所在する様子はなく,同社の営業拠点は,あくまでも千葉県成田市ab番地c所在の被告旧藤田運輸の本店内の「整備配送部」と同一であって,郵便受けにも「株式会社藤田運輸」「潟Aルコン」「成田空港観光梶v「成田エアポートサービス」の表示がある以上,被告らの営業拠点も混同していることが明らかである。
また,被告新藤田運輸は,本件営業譲渡前,被告旧藤田運輸の従業員を相手に自動車保険の代理店業務を行っていた程度であり,商業登記に記載されている「荷役作業請負業」などはほとんど行っておらず,従業員もA1名で,独自の電話番号すらもっておらず,東京商工リサーチで検索もできない状況であり,また,その取引先は100パーセント被告旧藤田運輸で,独自の事業は行っておらず,更に,被告新藤田運輸の営業利益は,平成14年5月期がマイナス379万円,平成15年5月期がマイナス376万円,平成16年5月期がゼロと利益を上げることができないなど,ほとんど実態のない会社であった。
(オ) 会社財産の混同
上記(エ)のとおり,被告新藤田運輸の営業拠点は被告旧藤田運輸の本店内であったが,賃料が支払われた形跡はなく,また,被告新藤田運輸は,被告旧藤田運輸が所有する2筆の土地及び1筆の建物について,平成13年12月21日又は平成14年9月26日,売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記を経由し,平成16年5月14日,上記仮登記に基づく本登記を経由しており,被告らの会社財産が混同していることが明らかである。
(カ) 従業員の構成
被告新藤田運輸の従業員は,被告旧藤田運輸の従業員のうち賃金の引下げ及び被告旧藤田運輸の会社の閉鎖に対して反対活動を行った一部の従業員を除いたものにすぎない。
(キ) 銀行口座
本件仮処分決定に基づいて差し押えられた被告新藤田運輸の銀行口座(千葉銀行成田支店)は,取引先からの振込先と目されるにもかかわらず,平成17年3月9日時点で7万0839円の残高しかなく,同年6月2日時点では千葉銀行と被告新藤田運輸の取引関係がなくなっていたものであり,他方,被告旧藤田運輸は,平成17年3月,本件仮処分事件の債権者である労働者に対して退職金名下に支払った金員を千葉銀行成田支店の同社名義への当座預金口座に振り込むよう催告していたのであって,かかる経緯からすれば,被告らは,売掛金の入金先等としては依然として被告旧藤田運輸の取引口座を使用していたと考えられるものであり,法人格を濫用していたというべきである。
(ク) 被告旧藤田運輸の偽装閉鎖
被告旧藤田運輸は,その取引先であったTACT(東京エアカーゴ・シティターミナル)及びその子会社であるKBS(京葉物流サービス)が平成15年9月に閉鎖となったことがあるものの,TACTの事業はNLT(成田ロジスティック・ターミナル)が継承したため,被告旧藤田運輸の運搬料収入も減少してはおらず,その他に経営状況の悪化を招くような経営環境の大きな変化もなく,現に平成15年3月期決算においても3500万円以上の利益を上げていることからすれば,本件営業譲渡がなされた平成16年3月期決算が赤字であったとは考えられない。
仮に,赤字であったとしても,前期利益と通算すれば,被告旧藤田運輸の経営が危機的状況にあったとは考えられず,会社を閉鎖する合理的理由がないというべきである。
また,被告旧藤田運輸は,賃金引下げを発表した平成16年3月20日以降でも,なおトレーラーヘッド3台を1350万円で購入しており,同年8月にもETCの申込手続をするなど,新たな設備投資をしているうえ,同年7月25日付け及び同年8月1日付けの各新聞折込広告で運転手4名及び配車係1名の求人募集もしているのであるから,被告旧藤田運輸による会社の閉鎖が偽装のものであることが明らかである。
(ケ) プロシードエアカーゴの設立
登記簿上,被告新藤田運輸の取締役であったNは,同取締役を辞任した後の平成17年3月31日に被告らと同業種を目的とした株式会社プロシードエアカーゴ(以下「プロシード」という。)を設立しているが,プロシードは,その本店所在地もNの自宅としているにすぎないうえ,被告旧藤田運輸から被告新藤田運輸に売却されたはずの普通貨物自動車については同月11日に所有者登録をされているものの,その使用本拠欄は空白とされていることからすれば,実態のない会社にすぎないところ,Nは,かつて被告旧藤田運輸の営業部長及び被告新藤田運輸の推進部長の職にあったものであり,本件仮処分事件の審理にも立ち会っており,同月14日の団体交渉の際には労働組合に対応するなどしていたうえ,登記簿上は同年2月28日に被告新藤田運輸の取締役を辞任しているにもかかわらず,同年3月に至っても同社の総合対応窓口というべき立場で活動していたことからすれば,プロシードは,被告らのダミー会社であり,被告旧藤田運輸が平成16年5月以降繰り返してきた偽装工作の延長として設立されたものにすぎないことは疑いようがないというべきである。
イ目的
(ア) 本件保証債務を免れる目的
被告旧藤田運輸は,平成15年,売上げの過半を占めていた大口の取引先2社が閉鎖したことにより売上げが減少し,更に,本件保証債務を含む合計約8億円の負債があったことから資本に欠損を生じる状態が継続していたところ,かかる状況のもとで,本件第2譲渡の通知を受け,更に,原告から本件保証債務につき3億2710万4276円の支払を求める催告を受けたことから,倒産を防止して本業である一般貨物自動車運送事業の営業を維持するために,本件営業譲渡が行われたことにしたものであり,本件営業譲渡代金1551万円が現実に支払われた形跡がないこと,本件営業譲渡契約書では「甲(被告旧藤田運輸)は自己の経営する一般貨物自動車運送事業に関連する一切の資産及び権利義務を乙(被告新藤田運輸)に譲渡し,乙はこれを譲受けるものとする。」(第1条)としているにもかかわらず,主要な営業用財産である車輌については36回均等払い,機械及び什器については市価の半額として営業譲渡代金を決めているなど,実質的な対価は何ら伴ってはいないものであることからすれば,本件営業譲渡は,債務の支払を免れる目的をもってなされた,何ら実質をもたないものであるというべきである。
このことは,被告旧藤田運輸が,上記の平成16年6月28日の団体交渉の席上で,「ダイキに対して8億円,その他にも8億円の借金があり,いつダイキの取立があるか分からない。会社を譲渡する。株式会社藤田運輸支部の社名を名乗ってくる会社を探している」旨の発言をしていたことからも明らかである。
また,被告新藤田運輸は,本件仮処分事件の労働者らが平成17年6月23日付けで被告新藤田運輸の売掛債権を差し押さえたところ,同売掛債権をSなる人物に譲渡する旨の通知を第三債務者に郵送しており,明らかに強制執行を免脱する目的をもって悪質な債権譲渡をしたものというべきである。
(イ) 被告旧藤田運輸の組合つぶしの目的
被告旧藤田運輸が,平成16年3月20日ころ,同年4月1日分からの車輌乗務員に対する賃金の減額を発表したのに対し,これに反対する従業員らが「藤田運輸賃下げに反対する会」を結成したうえ,同年5月30日ころに「交通運輸一般労働組合本部藤田運輸支部」(以下「交運労」という。)を結成したところ,交運労は,被告旧藤田運輸に対し,同年6月7日及び14日,団体交渉を申し入れるなどしていたものであるが,被告旧藤田運輸は,これらをいずれも拒否したうえ,同月21日,- 28 -
交運労等の各労働組合の三役を呼び出して説明会を開催し,同年8月末をもって会社を閉鎖する旨を発表するに至ったため,交運労は,再度,被告旧藤田運輸に団体交渉を申し入れ,同年6月28日に両者間で団体交渉が行われたが,その後の団体交渉は実現しなかった。
他方,被告新藤田運輸は,同年7月14日ころ,被告旧藤田運輸の協力を得て,被告旧藤田運輸総務部長名義で,被告旧藤田運輸従業員に対して社員募集に関する通知を行い,同月20日から26日にかけて,応募してきた被告旧藤田運輸の従業員22名の面接を実施し,うち17名の採用を内定したものの,交運労の組合員5名は採用しなかった。
その後,同年8月20日,被告旧藤田運輸は,本店所在地を千葉市内に移転したうえ,同月31日,会社を閉鎖して従業員全員を解雇した。
以上のとおり,被告新藤田運輸の商号変更及び本件営業譲渡は,平成16年5月から6月にかけての,まさに交運労の被告旧藤田運輸に対する反対運動が高まっていた時期に行われたことからすれば,被告旧藤田運輸は,労働組合をつぶす目的のもとにも,形式的に被告新藤田運輸に営業を譲渡し,被告旧藤田運輸の営業を停止したものというべきである。
現に,本件仮処分事件においては,労働者らの地位確認が認容されており,同決定は,債権者である労働者らとの関係で,被告らが実質的に同一であるとして法人格否認の法理の適用を認めたものというべきである以上,原告に対する関係でも,同法理の適用が認められるべきである。
【被告らの主張】
ア法人格否認の法理の適用の主張について
被告らが実質的に同一の法人であり,法人格否認の法理が適用される旨の原告及び参加人の主張は争う。
本件仮処分事件においても,法人格否認の法理は債権者側の主張の理由の一つにすぎず,裁判所は,同仮処分決定の理由中において,雇用関係を維持すること以外に生活の手段を得るすべのない労働者の救済という緊急の目的のため,暫定的な措置として,「債権者らは,債務者との関係で労働法上の地位が承継されていることになる」と認定しているにすぎず,法人格否認の法理の適用を認めたものではないのであって,ましてや,外部の債権者との債権債務関係が問題となる本件において,法人格否認の法理を適用してまで原告及び参加人の権利を救済しなければならないような状況にないことは明らかである。
イ支配性及び目的に対する反論
被告新藤田運輸の資本関係については,被告新藤田運輸は,DではなくAが出資し,その後,B,N及びMにより増資された会社であり,Dとは独立した会社である。
また,被告新藤田運輸の営業目的,従業員,資産,得意先などが被告旧藤田運輸のそれらと同一であるのが多いのは,営業譲渡の性質上当然のことであって,それゆえに被告新藤田運輸の法人格の独立性が否定されるものではないし,被告新藤田運輸は,労働者らによる裁判及び仮差押え並びに原告による仮差押えが重なったことにより得意先が逃げるなどして営業不振に陥った結果,実態がないように見えるにすぎないというべきである。
(5) 争点(5)(商事消滅時効の成否)について
【被告らの主張】
ア商事消滅時効の起算点
(ア) 確かに,本件貸金債務は,たくぎん抵当が本件不動産競売手続を申し立てたことにより,本件第1譲渡が行われたとされる平成13年10月25日まで,たくぎん抵当について消滅時効の中断事由が継続しており,各承継人は,適法な債権譲渡がなされた場合には,上記時効の中断効を承継することができると解されるが,本件第1譲渡及び本件第2譲渡については,対抗要件を具備していなかった以上,スリーエルエルシー及び原告による各不動産競売申立人の変更届も無効であり,それゆえ,本件不動産競売手続は,本件第1譲渡日以降において,申立債権者が不在の無効な手続になったものというべきであり,同手続における被告旧藤田運輸所有の不動産の売却及び配当も無効であるというべきである。
仮に,本件第1譲渡ないし本件第3譲渡の各債権譲渡の通知がその後に追完されたとしても,本件不動産競売手続は既に配当により終了しており,かつ,上記債権譲渡通知の効力も遡及などしない以上,本件不動産競売申立人の変更届及び本件不動産競売のいずれも有効にはならないのであるから,時効中断効も,平成13年10月25日までしか認められない。
したがって,本件貸金債務の商事消滅時効は,同日から再び進行を始めていたものであるところ,同日から5年後の平成18年10月25日の経過により商事消滅時効が完成しているので,被告らは,この消滅時効を援用する。
(イ) 仮に,本件不動産競売について配当が実施された平成14年7月2日まで時効中断の効力が継続しているとしても,同日から5年後の平成19年7月2日の経過により商事消滅時効が完成しているから,被告らは,この主債務の消滅時効を援用する。
イ本訴の提起による時効の中断の主張に対する反論
債権譲渡の通知又は承諾を欠いている場合には,譲受人が訴えを提起しても,債権者でない以上,裁判上の請求等として時効中断の効力は生じず,催告としての効力もないことは判例学説上明らかであるところ(大審院大正3年(オ)第85号第一民事部判決・民事判決禄20輯407頁,大審院大正8年(オ)第768号第三民事部判決・民事判決禄25輯1871頁),上記(1)のとおり,本件第1譲渡については債権譲渡の通知が到達したことの立証がなされていない以上,原告による本訴提起によって時効中断の効力が生じることはない。
仮に,今後債権譲渡の通知を追完するなどしても,その効力が遡及することなどない以上,本件訴えを遡って有効にすることもできないのであるから,時効の中断の効力は生じず,前記のとおり,遅くとも平成19年7月2日の経過により消滅時効は完成している。
ウ信義則違反又は権利の濫用に対する反論
不動産競売手続における債務者の異議申立ては権利であって義務ではないし,不動産競売手続は実体上の権利関係に影響を及ぼさないから,本件不動産競売手続内において異議を述べなかったとしても,同手続終了後,なお債務者らが実体上の権利関係を争うことができることは当然であって,被告らによる消滅時効の援用が信義則違反又は権利の濫用にあたるはずがない。
【原告及び参加人の主張】
ア商事消滅時効の起算点
本件不動産競売の開始決定正本が送達されたことにより,本件貸金債務については時効が中断するところ,この中断の効力は,本件保証債務についても効力を有するもので,本件不動産競売手続の継続中は持続するから,配当がなされた平成14年7月2日まで時効が中断している。
被告らは,本件第1譲渡日である平成13年10月25日から本件貸金債務の商事消滅時効が進行する旨主張するが,仮に,被告らが主張するとおり本件第1譲渡が藤田陸運に対抗できないとすれば,本件不動産競売の申立権者はたくぎん抵当のままであることになるのであるから,本件不動産競売手続が終了した平成14年7月2日まで時効は中断していたものと解すべきである。
また,本件第1譲渡日以降の本件不動産競売手続が全て無効であるとすれば,同手続自体が終了していないというべきであるから,未だ時効が中断していることになると解されるものである。
イ本訴の提起による時効の中断
アにおいて商事消滅時効の起算点をいずれと解するにせよ,平成17年1月26日に原告が本件貸金債務の連帯保証債務である本件保証債務の履行を求める本訴を提起したことにより,本件貸金債務の商事消滅時効は中断する以上,時効は完成していない。
これについて,被告らは,債権譲渡の対抗要件を具備していない以上,訴え提起は時効中断の効力を生じない旨主張するが,上述のとおり,各債権譲渡について通知又は承諾がなされているから,本訴の提起により時効中断の効力を生じるし,仮に,通知又は承諾を欠いていたとしても,被告らによる対抗要件の抗弁の主張は信義則違反又は権利の濫用として許されない以上,消滅時効は完成していない。
ウ時効の援用が信義則違反又は権利の濫用
本件不動産競売事件においては,藤田陸運及び被告旧藤田運輸は,競売申立人ないし債権者の地位の承継について一度も異議を述べておらず,そのために,原告は,本件不動産競売事件の手続中に債権譲渡の通知手続をやり直す機会を逸してしまったものであるから,被告らによる本件貸金債務の商事消滅時効の援用は,信義則違反又は権利の濫用として,許されないというべきである。
(6) 争点(6 (本訴の請) 求が信義則違反又は権利の濫用にあたるか。)について
【被告らの主張】
藤田陸運は,平成3年ころ,土地買収のため,被告旧藤田運輸の株式会社千葉興業銀行からの借入れにつき,株式会社北海道拓殖銀行から借換えをすることにより合計約40億円の資金を調達したが,この借換えの際,便宜上,被告旧藤田運輸に対する16億円の貸金債権として会計処理をした。
被告旧藤田運輸の経営コンサルタントを平成5年ころから行っていた株式会社ダイキ(現ダイキ・ホールディングス。以下「ダイキ」という。)は,藤田陸運と不仲になった後,上記会計処理に目を付け,ダイキの藤田陸運に対する貸金債権を請求債権,藤田陸運の被告旧藤田運輸に対する貸金債権を差押債権とする取立訴訟を提起したところ,平成14年3月,東京高等裁判所で,被告旧藤田運輸がダイキに対して7600万円を支払うとともに担保権が設定されていない不動産全てをダイキに譲渡することを内容とする和解が成立し,以後相互に何らの債権債務がないことが確認された。
たくぎん抵当及びその破産管財人も,合計約40億円の債務について,抵当権の実行のみを行っており,本件保証債務の履行請求をする動きは一切なかったことから,被告旧藤田運輸は,上記和解により全てが解決するものと考えていたし,上記のとおり,本件保証債権は,同額を極度額とする本件根抵当権設定契約に付随するものであるから,本件不動産競売により被告旧藤田運輸所有の不動産から約1億7000万円が回収された後も本件保証債務の履行を請求されるとは想定していなかったものである。
しかるに,原告は,被告らに対し,本件保証債務の履行を請求しているところ,原告が日本支店には連絡もとれないような幽霊会社であり債権回収もロンバートに委託していること,原告がダイキの完全子会社であるコンテナーとの間で本件第3譲渡及び本件第4譲渡という不自然な譲渡を行っていること,原告の日本における代表者として登記されているTがダイキの従業員であり,しかも30歳前後の若者にすぎないことからすれば,原告の実体はまさにダイキそのものであるというべきであって,そうすると,ダイキは,上記和解により7600万円及び土地を取得し被告旧藤田運輸との間で債権債務がないことを確認する一方で,その和解直後の平成14年4月に原告を傀儡として非常に低廉な額で本件保証債権を取得し,同債権をもって被告旧藤田運輸の一般財産にまで責任を追及するのは,上記和解に応じた被告旧藤田運輸の予期に反し,不公平である。
かかる事情からすれば,原告による本訴請求は,信義則違反又は権利の濫用として許されないというべきである。
【原告及び参加人の主張】
原告は,資本金が少額で従業員もいない外国会社であり,債権回収もロンバートに委託しているが,これは,原告が,資産流動化を目的として海外ファンドのために不動産担保付債権等を買い取るための特別目的会社であることの性質上,当然のことであるし,また,原告とダイキは,資本関係が別で,Tも現在はダイキの従業員ではなく,全くの別会社であるから,ダイキと被告旧藤田運輸との間の和解は原告及び参加人には全く関係がないし,本件保証債権の責任財産が本件根抵当権の設定された物件に限定される理由もないのであるから,本訴請求が信義則違反又は権利の濫用にあたることはない。

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裁判所の判断
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一方
前記
事実

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かかる融資は,当然にW自体の債務返済能力も加味されて実行されたものと考えるべきであり,Dの新株の担保力のみをもって当該融資がなされたものと考えるのは相当でない。仮に,Dの新株の担保力のみでかかる融資が受けられるのであれば,それを担保にして,Eないし被告人C自身を債務者として融資を受けることが最も容易かつ簡明であるはずであるが,かかる融資は実現しておらず,これに,上記のようなDの財務状況や株価変動状況を併せ考慮すれば,Wが上記のようにX銀行から融資を受けることができたからといって,そのことは,Dの新株940万株を担保として6億4680万円もの高額の資金を調達することが容易であったことの根拠とはならない。
加えて,上記2(1)のとおり,出資の履行を払込期日までにする必要があり,その後に新株が発行されるという法制度の下,当該主張のように,発行後の新株を担保とする融資によって株式払込みの有効性を追完しようとすることは,それ自体,制度の趣旨に反するものといえ,にわかに容認しがたいところである。
よって,Aらの弁護人の上記主張は採用できない。